Cultural Journey

アメリカへの憧憬と沖縄への想い TOM MAXの世界

2021.08.24

緑豊かなアトリウムの2階から4階にかけて展示されているのは、TOM MAXの愛称で親しまれる美術家・真喜志勉さん(19412015)の作品。
漆喰やベンガラ、コンクリートなど沖縄の文化を感じさせる素材を用いた独自の作風が見る人の心に深い印象を与えます。また、客室にもポップアートの手法を織り交ぜた版画が飾られ、ゆっくりと楽しむことができます。真喜志さんの人柄や思い出、MBギャラリーチャタンに作品が展示されることへの思いを、奥様でありご自身も染織作家として活動している真喜志民子さんに伺いました。

「ホテルに作品を展示したいというお話をいただいたときはうれしかったですね。一人でも多くの方に主人の作品を見てもらいたいと思っていました。展覧会は期間がありますが、ここでは訪れる方の目に触れる空間にずっと存在し、いつでも見ていただけるというのは幸せなことです」

MBギャラリーチャタンのルーツ「ホテルムーンビーチ」(1975年創業)を設計した建築家の故・國場幸房さんと真喜志さんが親しかったこともあり、不思議な縁を感じたそうです。
「國場幸房さんは那覇高校の先輩で、親しくさせていただいていました。ムーンビーチは建築中に足を運んだこともあった思い出のあるホテルで、その精神を受け継いでいるMBギャラリーチャタンのアトリウム空間に主人の絵が飾られるというのは感慨深いものがあります。運命的なものを感じましたね」

2013年夏、自宅ベランダにて。染織家である妻、真喜志民子氏の布の取材の際、カメラマンの須磨尚生氏が記念に撮ってくれたもの。

ジャズをこよなく愛し、車が好きで、洒脱なイメージがありますが、どんな方でしたか。
「すごくシャイな人でしたね。でもユーモアがあってよく人を笑わせていました。落語や川柳が好きで、言葉遊びやダジャレも好きでしたよ。あまり褒めるのもなんですが(笑)、何でもできる人でしたね。絵はもちろん、デザイン、文章を書かせたら文章もうまい。花を活けても私よりうまい。花器も自分で作っていました。目利きでしたね。ものを見る目が養われていて、焼き物でも何でも主人が選んだものはずっと残っている、時が経ってもいいなと思うものばかりです」

多摩美術大学を卒業後、沖縄に戻り家業である洋服屋を継いだ真喜志さんですが、民子さん曰く、側から見てても商売には向かないと感じたそうです。アートで表現したい、ニューヨークに行きたいという気持ちを尊重し、1年間のアメリカ遊学を承諾。帰郷後は、精力的に作品を制作し、ほぼ毎年のように個展を開くと同時に、絵画教室「ぺんとはうす」を開設し、後進の育成にも力を注いできました。沖縄前衛美術の先駆者といわれる真喜志さんは、生涯に渡り沖縄を拠点に活動し、複雑な時代の変遷を鋭く見つめ表現してきました。

「私は彼の絵を理解するというよりも、彼が表現することを理解してきました。絵については、鑑賞者の解釈に委ねるというか、見た人それぞれがイメージして考えるものなので、あまり断定的に説明するということはないです。沖縄にこだわっていましたね。県外で出展することはほとんどなかったです。特にアメリカから帰ってきてからは沖縄が自分の中心、へそだと言っていました。沖縄的なものを描くわけではないんですが、沖縄から発信するということにこだわっていました」

一番の理解者として共に歩んできた民子さん。真喜志さんが亡くなった後も、膨大に残された作品を娘の奈美さんと整理して、数々のコレクション展を開催しています。アメリカへの憧憬と沖縄への想い、アンビバレントな想いを内包した作品世界にファンは多い。TOM MAXが残した作品は、MBギャラリーチャタンのアトリウムで、沖縄の光と風の中、静かに時を育んでいます。

娘の奈美さんが出版した「TOM MAX 1941-2015」は、時代ごとの作品や資料、プライベートな手紙や写真など、真喜志勉さんの魅力が詰まった貴重なメモリアルブック。

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